不思議な場所は本当にあるもので、本日紹介する念仏池がそうだ。井戸くらいの大きさの池が隣り合って二つあり、一つは浅くて底にたまった泥が見えている。もう一つは深く澄んでいるが深さまでは分からない。しかも時折、気泡が上がり、水面に波紋が広がる。いわば静と動。同じ場所にありながら、なぜこのように違いがあるのか。不思議だ。
三次市西酒屋町(にしさけやまち)の船所(ふねぞ)に「念仏池」がある。左側の池のことだ。
まずは右側の池をのぞいてみよう。
流れのない水は、大体このような感じだ。次に左側の池をのぞいてみよう。
川の水のように澄んでいる。小さな池だから、水は淀み浮草が繁茂しそうだが、この美しさは意外だ。
よく見ていると気泡が上がってくる。はじけて水面に波紋を描いている。いったい、この気体はどこからやって来るのだろう。もしかすると大阪万博のようなメタンガスなのだろうか。道路脇の説明板を読んでみよう。
念佛池の由来
念佛池は、直径約一、九メートル、深さ一メートル少々、水深は約三十センチメートルで早天(ひでり)でも降雨時でも、水位にほとんど変化はないと言われています。
(隣接する池は、水位の変化が激しい)
池の底は岩盤で、湧き出る水は、少し塩気を含んでいます。
この池に向かって念仏を唱えると、池の底からブツブツと水が湧き出るので佛池(ぶついけ)とも言われています。
池の上には、鹽權現(しおごんげん)(荒神ともいう)が祀られていて、早天に雨乞いをするという験(しるし)があったという言い伝えがあります。
念仏を唱えるとブツブツと水が湧き出るというが、これは付会だろう。ブツブツと気泡が上がるから「ぶつ池」と呼ばれ、仏池と字を当てたことから念仏池の伝説が生じたのだろう。実際に音が聞こえるわけでなく、気泡はたまにしか現れない。
日本の伝説21『広島の伝説』(角川書店)には、この池の写真が掲載されており、次のようなキャプションが付いている。
念仏池。今は深さ30~40センチくらい。銭を入れず念仏しなくてもブツブツ泡立っている。メタンガスなどでなく、地下水が空気をふくんでわき出るのだそうだ。
メタンガスでなくて空気だそうだ。では、その空気はどこから入って来たのか。井戸ポンプの水がエア噛みすることがあるが、これは配管の劣化による割れで空気を吸い込んだからのようだ。これは強制的に吸い込んでいるからだが、念仏池の場合はどんな仕組みだろうか。
それに隣り合う池で、なぜこのように状況が異なるのか。念仏池がたまたま地下水脈と接しているのだろうか。ならば、その空気はどこから? さらに、内陸部にもかかわらず塩気を含むのはなぜか? ミステリアスな場所とは、まさにここのことだろう。